2024年11月10日日曜日

「pcDuino3」でYocto Project その10

前回からの続きです。

このテーマを最初からご覧になる場合はこちらからどうぞ。


「core-image-sato」のビルド(完結編)

試行錯誤の末、前回までに「core-image-sato」のbitbakeまで漕ぎ付けました。

長いビルド時間をかけて、ようやく絵の出せるディストリビューションを完成させたと思いきや…。

出来上がったイメージをSDカードにコピーし「pcDuino3」に挿入、起動させましたが、以下の画面でフリーズという残酷な結果。

スプラッシュスクリーン


このスプラッシュスクリーンは「core-image-minimal」の時には出ていなかったので、全くダメというわけでもないのでしょうけど…。

何が悪いんだろう?

再びネット検索で調査します。

キーワードは「meta-sunxi」など、問題の有りそうなレイヤーやレシピの名前を使うと良いです。

すると、このページが引っかかりました。

これは、Chelさん(って言うのかな?)のブログで「pcDuino3」と同じくAllWinner製のプロセッサを搭載している「Cubieboard2」というボードで「Yocto Project」を使用した際の記録です。

このように、自分が使おうとしているボードと同じプロセッサの情報でも、案外良いヒントになったりします。

この情報を使わせていただきましょう。

Chelさん、ありがとうございます!


さて、このページの情報によると「core-image-sato」を動かすために更に必要な作業は、以下の通りです。


◯「local.conf」へ必要なパラメータの追記

◯「sunxi-mali_git.bb」の修正

◯「gstreamer1.0-plugins-base_%.bbappend」ファイルの作成


まずは「local.conf」へ必要なパラメータの追記からやってみましょう。

パスは、以下の通り。


/home/yocto/poky/build/conf/local.conf


最終的に、以下のように追記しました。

  • ...
  • #
  • # for pcDuino3
  • #
  • #CORE_IMAGE_EXTRA_INSTALL += "nodejs nodejs-npm openssh git"

  • PACKAGECONFIG:remove_pn-xserver-xorg = "glamor"
  • XSERVER:append = " xserver-xorg-extension-glx xf86-video-modesetting xf86-video-fbdev"
  • XSERVER:remove = "xf86-input-keyboard xf86-input-mouse"
  • IMAGE_FEATURES += "x11"
  • DISTRO_FEATURES:append = " opengl x11"
  • DISTRO_FEATURES:remove = "wayland"
  • MACHINEOVERRIDES .= ":use-mailine-graphics"
  • VOLATILE_LOG_DIR = "no"


この内「XSERVER:remove =」の行は、前回の修正。

「MACHINEOVERRIDES .=」の行は、こちらのREADMEを根拠に。

「VOLATILE_LOG_DIR =」の行は、こちらにある通り、「/var/log」以下のログを保存しておきたかったので追記しています。

これ以外は、ほぼChelさんの情報から必要と思われるものを抜粋しています。

追記が終わったら「local.conf」の保存をお忘れなく!


次に「sunxi-mali_git.bb」の修正です…ってこのファイル前回も修正しましたよね?

まだ足りないってか?

パスは、以下の通り。


/home/yocto/poky/meta-sunxi/recipes-graphics/libgles/sunxi-mali_git.bb


ここでは、ファイルの最後の方、一行だけ修正します。

わかりにくいかもしれませんが「RPROVIDES:${PN} +=」の行を「#」でコメントアウトして、その直下に新たに「RPROVIDES:${PN} =」の行を付け加えています。

  • ...
  • # Packages like xf86-video-fbturbo dlopen() libUMP.so, so we do need to ship the .so files in ${PN}
  • PACKAGES =+ "${PN}-test"

  • #RPROVIDES:${PN} += "libGLESv2.so libEGL.so libGLESv2.so libGLESv1_CM.so libMali.so"
  • RPROVIDES_${PN} = "libGLESv1_CM.so libGLESv2.so libEGL.so"
  • #RDEPENDS:${PN}-test = "${PN}"

  • FILES:${PN} += "${libdir}/lib*.so"
  • FILES:${PN}-dev = "${includedir} ${libdir}/pkgconfig/*"
  • FILES:${PN}-test = "${bindir}/sunximali-test"
  • ...


変数に「+=」 とした場合、元の変数の中身に加えて、これ以降に表記する要素を加えます。

対して「=」の場合は、元の変数の中身に関係なく、これ以降に表記する要素をそのまま代入します。

つまり、元の表記では余計なものが「RPROVIDES」変数に加えられてしまうのでしょう。

修正が終わったら「sunxi-mali_git.bb」の保存をお忘れなく!


最後に「gstreamer1.0-plugins-base_%.bbappend」ファイルの作成です。

この長ったらしい名前のファイル、以下のディレクトリに作成します。


/home/yocto/poky/meta-sunxi/meta-sunxi/recipes-multimedia/gstreamer/

ファイル・ブラウザ - 1


この「gstreamer1.0-plugins-base_%.bbappend」ファイルの中身は、以下のように表記します。

  • RDEPENDS_libgstgl-1.0 += "sunxi-mali"
  • RDEPENDS_${PN}-opengl += "sunxi-mali"


これまでの経験からレシピ・ファイルの拡張子は「.bb」であることがお分かりでしょう。

今回の「.bbappend」ファイルというのは、同名のレシピ・ファイル「.bb」の後にbitbakeにより解析され、同名のレシピ・ファイル「.bb」の中で行われた内容を変更したり、補完したりするものです。

例えば、どこかのレイヤーに「hogehoe.bb」というレシピがあって、その中で「HOGEHOGE = "fuga"」とあるとします。

このとき、どこかのレイヤーに「hogehoe.bbappend」というファイルがあって、その中で「HOGEHOGE = "piyo"」とあった場合、最終的に「HOGEHOGE 」変数は「"piyo"」となります。

一方、「hogehoe.bb」というレシピがあったとしても、その中で「HOGEHOGE 」変数の操作が行われていない場合を考えてみましょう。

このケースでは「hogehoe.bbappend」というファイルがあって、その中で「HOGEHOGE = "piyo"」とあった場合は、この内容で「HOGEHOGE 」変数が定義されることになります。

この「.bbappend」ファイルというのは、元のレシピ・ファイルを不用意に変更したり、汚さないようにするために多様されます。

今回の場合「gstreamer1.0-plugins-base_x.xx.x.bb」は、恐れ多くも「Yocto Project」の根幹であり、最上位のレイヤーである「meta」に属するレシピです。


/home/yocto/poky/meta/recipes-multimedia/gstreamer/gstreamer1.0-plugins-base_1.22.6.bb


サードパーティとしては、自分の都合でこれを書き換えてもらえるはずもない(ボードやベンダーごとにそんなことやってたら収集が付かなくなる)ので、このような変更方法を採ります。

また「gstreamer1.0-plugins-base_%.bbappend」の「%」は、ワイルドカードです。

レシピ・ファイルは、名前の後にリビジョン番号が付くことがあります。

つまり今回の場合は、全てのリビジョンの「gstreamer1.0-plugins-base」に適応される「.bbappend」ファイルという意味になります。


さて、これで修正作業は完了。

以下のコマンドで「core-image-sato」をbitbakeします!

うぉりゃ、行け~ぃ!!


$ bitbake core-image-sato

ターミナル - 1


今回はそんなに時間はかからないはず!

というわけでbitbake無事終了!!

ターミナル - 2


以下のディレクトリを確認すると…


/home/yocto/poky/build/tmp/deploy/images/pcduino3/


ちゃんと「core-image-sato-pcduino3.wic.gz」というのが出来ていますね!

ファイル・ブラウザ - 2


こちらの記事を参考にSDカードを作成して「pcDuino3」を起動させましょう。

簡単におさらいすると…。

まずは、以下のコマンドで圧縮されている「core-image-sato-pcduino3.wic.gz」を解凍。


$gunzip -k -f ./tmp/deploy/images/pcduino3/core-image-sato-pcduino3.wic.gz

ターミナル - 3


以下のディレクトリで解凍された「core-image-sato-pcduino3.wic」を確認してください。


/home/yocto/poky/build/tmp/deploy/images/pcduino3/

ファイル・ブラウザ - 3

ここでパソコンにSDカードを挿入して、以下のコマンドでUbuntuに何処に認識されたかを確認します。


$ df

ターミナル - 4

今回の場合「/dev/sdb1」が「/media/yocto/boot」、「/dev/sdb2」が「/media/yocto/c748ecdf-46b6-4795-82ca-bb519c856946」として認識されていますね。

これは、私の環境の場合ですので、みなさん各自必ず確認してください。

SDカードにOSのイメージを書き込む前に、これらをアンマウントする必要があります。

今回の場合は、そのコマンドは以下の通りです。


$ sudo umount /media/yocto/boot

$ sudo umount /media/yocto/c748ecdf-46b6-4795-82ca-bb519c856946

ターミナル - 5

SDカードへアクセスするための権限を付与します。

今回の場合、SDカードは「sdb」と認識されていたので、以下の通り。

b」の部分は環境によって異なる可能性がありますので注意。


$ sudo chmod 666 /dev/sdb

ターミナル - 6

いよいよ以下のコマンでOSイメージの書き込みです。


$ oe-run-native bmap-tools-native bmaptool copy ./tmp/deploy/images/pcduino3/core-image-sato-pcduino3.wic /dev/sdb

ターミナル - 7


書き込みが終了したら、SDカードを正しくパソコンから取り出し「pcDuino3」に挿入して、電源投入です!

今度は、上手くいくはず!!

冒頭のスプラッシュスクリーンでフリーズすることなく、無事に起動…、いや、でもヤケに地味な画面ですな!

これが佐藤さん?

操作にはマウスが使えますので「pcDuino3」に挿入しましょう。

SATO - 1


デスクトップと思われる画面には、いくつかのアイコンが…。

「Media Player」っていうのは、ちょっと気になる。

SATO - 2


これだけしか無いの?

苦労したのに、淋しいねぇ。

SATO - 3


おっと、右上に何かリンクっぽいものが?

これをクリックすると…。

SATO - 4


おお!ゲームと思しきアプリのアイコンが沢山現れました!!

SATO - 5


ちょっと遊んでみようかな…。

これは、アレだ…パネルをずらしていって、1から15まで並べるヤツ。

「Fiteen」っていうのか~?

SATO - 6


お馴染みのマインスイーパー「Mines」。

SATO - 7


こちらもお馴染み、さめがめ。

…一瞬、何だか分からなかった。

「Samegame」です。

SATO - 8


数独もありました!

これは時間の経つのを忘れちゃう系。

SATO - 9


その他にも、遊び方が分からないものも含めて多くのゲームが入っていました。

すべて単純なものではありますが、デモンストレーションとしては親しみやすいですね。


さて、これで無事に絵の出るディストリビューション「core-image-sato」を「pcDuino3」上で動かすことができました。

これまで御覧頂いた通り「Yocto Project」でのディストリビューション作成は、相当に難易度が高いです。

マスターしようとしても、特に初期の段階では成長曲線の上がりは鈍いです。

しかしながら、bitbake中に起こるエラーには一定のパターンがあり、過去のエラーの内容と回避方法を覚えておけば、次に同じ問題に遭遇したときに応用が効くため、その後の作業は楽になっていきます。

また、今回のように自分の力だけではどうにもならない場合は、必要な情報をネットで検索するためのコツを掴むことによって、問題解決へと繋げることもできます。

そこに行き着くまでの道のりが長いことが課題と言えます。

しかしながら、NXPにせよ、TIにせよ、Renesasにせよ、STMicroもそうだったかな?

アプリケーションプロセッサのベンダーは、自社のプロセッサを搭載した評価ボードをリリースしており、そのためのレイヤーやレシピを提供しています。

つまり、これらをリファレンスとして利用する製品開発のためには「Yocto Project」を使用することが前提となっているのです。

組み込みエンジニアとして働いていれば、いつ「Yocto Project」を使用しなければならない案件が飛び込んでくるとも限りません。

事前に、今回の「pcDuino」や、メジャーどころの「Raspberry Pi」などで「Yocto Project」に慣れておいて損はないはずです。


Yocto関連の記事は、今回で終了です。

長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

今後は「Raspberry Pi5」などで、もっと深いレベルで「Yocto Project」を使用する例などもトライしたいと思います。

…むしろ「pcDuino3」などのマイナーなボードよりも情報量が多いので、最初から「Raspberry Pi5」にしておけば…って、後の祭りです!!


<終わり>

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